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広島高等裁判所 昭和45年(行コ)9号 判決 1974年4月22日

広島県佐伯郡五日市町駅前二六番の二

控訴人兼附帯被控訴人(控訴人という)

野村利男

右訴訟代理人弁護士

人見利夫

広島県佐伯郡廿日市八五八番地の六四五

被控訴人兼附帯控訴人(被控訴人という)

廿日市税務署長

岡田五郎

右指定代理人

川井重男

岡田安央

和崎雅

松下能英

右当事者間の行政処分取消請求、同附帯各控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴ならびに附帯控訴にもとづき原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が控訴人に対し昭和四二年四月五日付をもつてした控訴人の昭和三九年、同四〇年および同四一年度分所得税および重加算税賦課決定は課税所得金額昭和三九年度金三四万三二〇〇円、昭和四〇年度金二二五万八四〇〇円、昭和四一年度一〇一万六八〇〇円を基礎として算出される税額を超える限度においていずれもこれを取消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じて、これを三分しその一を控訴人のその余を被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四二年四月五日付をもつてした控訴人の昭和三九年分、同四〇年分、同四一年分の各所得税賦課決定処分をいずれも取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに附帯控訴棄却の判決を求めた。

被控訴人は、「本件控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴として「原判決中被控訴人の敗訴部分を取消す。控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠関係は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

原判決の控訴人主張中、雑取得がない旨の主張を次のとおり改める。控訴人が訴外大和機工株式会社(以下訴外会社という)から導入斡旋の謝金として受領したものは、別紙明細書記載のとおり昭和四〇年度金三八万二〇〇〇円、昭和四一年度金一五万五〇〇〇円であり、その内三割程度を経費として支出しているから、その範囲内での雑所得があつたことを認める。

(証拠関係)

控訴人は甲第一六ないし第二〇号証を提出し、当審証人久保田米一(第一、二回)、同川本雅秋、同国司静人(第一、二回)同河村勲の各証言、当審における控訴人本人尋問の結果を援用し、左記乙号証のうち第一四、第一六、第一七、第一九、第二二、第二七号証は不知、その余の成立を認めると述べ、被控訴人は乙第一三ないし第三一号証を提出し、当審証人大久保紀美枝の証言を援用し、右甲号各証はいずれも不知と述べた。

理由

一、控訴人主張の請求原因第一、第三項の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで、昭和三九年度、四〇年度、四一年度における控訴人の右雑所得額について検討する。

(一)  控訴人の導入預金の斡旋についての当裁判所の認定判断は、原判決理由二の(一)のとおりであるから、これを引用する。

(二)  謝礼金の取得について

原審証人滝口博隆、同大久保紀美枝の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果と右大久保証言により成立が認められる乙第一号証の一、二、第二号証の一、二、三、第三号証の一ないし一三、第四号証の一ないし四、第五号証の一ないし五、第六号証の一ないし二三および原審証人大崎利之の証言により成立が認められ第一二号証を総合すれば、控訴人は(一)の導入預金の斡旋に対し訴外会社から別紙計算書(一)記載のとおり導入預金斡旋額に対し一箇月一・三パーセント以上、その殆んどは一・三三三パーセントに相当する利息を手数料ないし謝礼金として受領しているほか、訴外会社に対し昭和三九年六月九日金五〇万円を貸与し、月額金三万円の割合による利息を受取つており、その各年度における受領金の明細は原判決添付の受領金額一覧表記載のとおり(ただし同表昭和四〇年五月一九日欄に「三六、〇〇〇」を書き加え、同四一年の同日欄の「三六、〇〇〇」を削除し、昭和四〇年六月三日欄を設け「一二、〇〇〇」を書き加える。)であつて、その合計額は昭和三九年七三万円、同四〇年八八九万五〇〇〇円、同四一年三一九万二四八〇円であることが認められる。

右認定に反し控訴人は訴外会社から受領した導入預金の斡旋手数料の一部は久保田米一の関係分が含まれて同人に支払われたものである旨をいうが、原審および当審(第一回)証人久保田米一の証言をもつてしてもこれを認めることができず、さらに控訴人の訴外会社に対する前記貸付の認定に反する当審証人川本雅秋の証言の一部、原審および当審における控訴人本人尋問の結果は信用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで控訴人は受領した手数料は、各導入預金者に支払われて、その一部しか取得していない旨を主張する。前掲乙第六号証の一ないし二三、当審証人久保田米一(第一回)同川本雅秋の各証言、弁論の全趣旨ならびに控訴人が訴外会社から受領していた前記手数料と導入預金額に対する比率(大部分が月一・三三三パーセント)を考え合せると、控訴人が短期間内に多額の導入預金を集めるために導入預金者に有利な条件を示す必要があり、右預金者に対し、その預金額に対する月一パーセントの謝礼を支払うこととし、これを支払つて来たことを推認することができる。そうすると、控訴人は少くとも一か月導入預金額に対する一・三パーセントの手数料を受け取り、その内一パーセントを導入預金者に支払い残額を自己の所得としていたものということができるので、これから算出すると、結局訴外会社からの手数料額の少くとも二三パーセントを得ていたものと認められる。この認定に反する甲第二〇号証(大和メモ)はその記載の態様、体裁からみて控訴人が後日一括して書いたものであるとの疑いが強く、当審証人久保田米一、同国司静人の各証言(第二回)に照して到底信用できず原審および当審における控訴人本人尋問の結果も措信できない。なお、前掲乙第一号証の二、第三号証の二、当審証人河村勲の証言ならびに弁論の全趣旨によると、控訴人が訴外会社に貸付けた金五〇万円は元々河村勲から借り受けたものを転貸したもので、訴外会社から受領していた月額三万円の利息のうち金二万円を右河村に支払つていたことが認められる。右認定を左右しうる証拠はなく、この分の控訴人の所得は、月額金一万円宛となり、原判決添付一覧表の昭和三九年分の六月九日、八月五日、一〇月七日、一二月五日、昭和四〇年分の二月五日、四月五日の各金六万円のうち、各金二万円をそれぞれ得たこととなる。

(三)  控訴人が前記導入預金の斡旋等について要した経費については、この点に関する当審における控訴人本人尋問の結果は直ちに信用できずその他これを認めるに足りる明確な証拠がないので、結局これを所得算定について考慮することができない。

よつて、控訴人の得た前記手数料等の総額を算出すると、昭和三九年度分は訴外会社からの受領額金七三万円より前記貸付利息分金二四万円を差引いた金四九万円の二三パーセントと右利息中控訴人が得た金八万円の合計金一九万二七〇〇円、昭和四〇年度分は訴外会社からの受領額金八八九万五〇〇〇円より前記貸付利息分一二万円を差引いた金八七七万五〇〇〇円の二三パーセントと右利息中控訴人が得た金四万円の合計金二〇五万八二五〇円、昭和四一年度分は、訴外会社からの受領額金三一九万二四八〇円の二三パーセントの金七三万四二七〇円となり、これを控訴人の雑所得と認める。

三、次に重加算税の賦課処分について判断する。

控訴人が昭和三九年ないし同四一年度の雑所得について確定申告をしていないことは当事者間に争いがない。前掲乙第二号証の二、第三号証の一ないし一三によると、訴外会社が控訴人に導入預金斡旋手数料を支払うについて、その帳簿上に野村組と記載し、かつ土地売買手数料、チヤーター料、工事金の名義で支出していることが認められ、あたかも訴外会社の工事に関する支出のごとく虚偽記入をしていたことが認められ、原審証人大久保紀美枝、同滝口博隆の各証言によると、右は控訴人から訴外会社代表者滝口博隆に対して記帳方法の申出があつたので、これに答えて同人が同社経理事務担当の大久保紀美枝に命じて記入させたものであり、かつ手数料を支払う際にも控訴人から領収書の交付がなかつたことが認められ、そのうえ成立に争いのない乙第一五、第一八、第二〇、第二一、第二三ないし第二六号証、第三〇号証、当審証人大久保紀美枝の証言によると、控訴人は訴外会社から一部小切手で手数料の支払をうけ、右小切手を現金化するのにその裏面に住所として「広島市大手町二丁目」等と、氏名も野村一郎、野村一夫と架空の記載をするなどしたことが認められ、右認定に反する証拠はない。右認定事実によると、控訴人は所得の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい仮装し、隠ぺい仮装したところに基き所得税額の限度でこれに対する重加算税賦課決定処分をなすことは違法ではないというべきである。

四、そうすると、控訴人の課税所得金額は、成立に争いのない甲第一ないし第三号証(所得税決定通知書)により前記雑書所得額をもつて算出すると、別紙計算書(二)のとおり昭和三九年度分金三四万三二〇〇円、同四〇年度分金二二五万八四〇〇円、同四一年度分金一〇一万六八〇〇円となり、右各金額を基礎として算出される税額を超えてされた所得税および重加算税賦課決定処分は違法といわねばならず、控訴人の本訴請求は右限度で理由があるから、これを認容しその余を失当として棄却すべきである。よつて、本件控訴ならびに附帯控訴にもとづき原判決を右趣旨に変更することとし、訴訟費用の負担について民訴法第九六条、第九二条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 胡田勲 裁判官 西内英二 裁判官藤本清は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 胡田勲)

明細書

<省略>

<省略>

計算書(一)

<省略>

<省略>

(なお年月日は、乙第六号証の三ないし一八によつたため、原判決添付の原告の受領金額一覧表記載の年月日と若干ずれのあるものがある。

計算書(二)

<省略>

以上

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